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静岡地方裁判所 平成5年(行ウ)6号 判決 1995年11月09日

原告 ヤオハン・ファイナンス株式会社

被告 沼津税務署長

代理人 浜秀樹 鈴木一博 ほか五名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告の平成元年五月二一日から平成二年五月二〇日までの事業年度の法人税につき、平成三年七月三〇日付でした更正及び過小申告加算税賦課決定(裁決による一部取消後のもの)のうち、所得金額が四九四七万〇六〇四円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告の平成元年五月二一日から平成二年五月二〇日までの事業年度(以下「本件係争事業年度」という。)分の法人税の申告につき、被告が、原告の海外子会社二社を租税特別措置法六六条の六第一項の特定外国子会社に該当し、また、当該各子会社の主たる事業目的は株式の保有であって同条三項の適用除外に該当せず、その所得中、同条所定の課税対象留保金額が原告の本件係争事業年度の益金に算入されるとしてなした更正及び過少申告加算税賦課決定の各処分の取消を求めた事案である。

一  前提となる事実(特に証拠の略号を挙示したもののほかは、いずれも当事者間に争いはない。)

1  原告の地位等

原告は、平成元年三月三一日現在、いわゆる軽課税国等の指定を受けていた香港に所在するYAOHAN FINANCE(H.K.)LIMITED(以下「ホンコン ヤオハン・ファイナンス社」という。)の発行済株式の総数の全てを直接保有していたもので、同社は、租税特別措置法(平成三年法律第一六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六六条の六(内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入)に規定する原告に係る特定外国子会社等に該当する。

また、原告は、平成元年三月三一日現在、香港に所在するYAOHAN HONG KONG CORPORATION LIM-ITED(以下「ホンコン ヤオハン社」という。)の発行済株式の総数三億株のうち一億〇〇二五万株(保有割合約三三・四パーセント)をホンコン ヤオハン・ファイナンス社を通じて間接保有していた。また、一億株(保有割合約三三・三パーセント)を内国法人である株式会社ヤオハン・ジャパン(旧商号・株式会社八百半デパート。以下「ヤオハン・ジャパン社」という。)が保有しており、ホンコン ヤオハン社は、措置法六六条の六に規定する原告に係る特定外国子会社等に該当する。また、同社の主たる事業は株式の保有である。

なお、原告は、右ヤオハンジャパンの一〇〇パーセントの子会社である(<証拠略>)。

2  本件処分

(一) 原告は、本件係争事業年度の法人税について、別表・本件課税の経緯

「確定申告」欄記載のとおり申告したところ、被告は、同表「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、更正処分及び過少申告加算税賦課決定をした。

その理由とするところは、要するに、原告の本件係争事業年度に対応するホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八八年八月一日から一九八九年三月三一日までの事業年度(以下「ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八九年三月期」という。)及びホンコン ヤオハン社の一九八八年四月一日から一九八九年三月三一日までの事業年度(以下「ホンコン ヤオハン社の一九八九年三月期」という。)の主たる事業は、いずれも株式の保有であったから、措置法六六条の六第一項の内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入(以下「タックスヘイブン課税」という。)の適用除外を定める同条三項に該当せず、当該特定外国子会社であるホンコン ヤオハン・ファイナンス社及びホンコン ヤオハン社の右事業年度の同条所定の課税対象留保金額を内国法人たる原告の係争年分の所得に合算課税するというものであった。

(二) 原告は、平成三年九月二五日、国税不服審判所に対し、右更正及び賦課決定について審査請求をしたが、平成五年六月一七日付けで、その各一部を取り消したものの、別表の「裁決」欄記載のとおりの裁決がなされた(以下、裁決による一部取消し後のものを「本件更正処分」、「本件過少申告加算税」といい、一括して「本件各処分」という。)

二  争点

本件の争点は、措置法六六条の六第一項の規定する原告の特定外国子会社等に該当する右各社の各一九八九年三月期の事業年度における留保金額を原告の所得に合算して課税することの可否に関して、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の右事業年度における主たる事業が、同法六六条の六第三項のタックスヘイブン課税の適用除外の対象とならない「株式の保有」に該当するか否かである。

1  原告の主張

(一) ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、単なる株式保有を目的とした会社ではなく、本件係争事業年度ころ、既に香港において活動していたYAOHAN DEPARTMENT STORE(H.K)LIMITED(以下「ホンコン ヤオハンデパート社」という。)等のヤオハングループ企業に対する事業資金の融資を目的としていたものである。

ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、一九八九年三月期はたまたま事業の立ち上がり時期であり、営業資金調達のため、予てから香港で上場を予定しており上場公開したならば株式の値上がりが必定と見られたホンコン ヤオハン社の株式を取得し、これを短期間に売却して譲渡益を得て、金銭貸付事業の展開に供しようとしたものであり、同社株式の保有等は、主たる事業である金融業の一環としてなしたことは明らかであり、株式会社の会社保有とそれによる所得とは性質を異にする。

(二) 措置法六六条の六第三項のタックスヘイブン課税の適用除外要件に該当するか否かの判断は、各事業年度毎にされると解されているが、主たる事業が何であるかはその法人の事業の全体の流れから合理的に判断されるべきであり、特定の一事業年度の収入・所得の内容だけから判断すべきものではない。

そして、措置法六六条の六第三項の規定は、あくまで正常な海外事業活動を阻害する結果を招くことになるのを避けるために設けられたものであり、同項の適用除外要件から除かれる「株式の保有を主たる事業とするもの」とは、いわゆる持株会社などタックスヘイブンにおいて保有することの経済的合理性のない株式の保有を対象としているものである。これを株式の保有という形式のみをとらえて正常な事業活動ではないということはできないのであって、その他の正常な事業に関連して、例えばその営業資金造りのために短期間保有されたものであるというような経済的合理性を有するものまでを右規定が適用除外要件から更に除外する対象として定めているものと解することは、同規定の正常な事業活動を阻害しないことを目的とする趣旨に反する、余りに狭い解釈であるといわなければならない。したがって、「主たる事業」の判定においては、事業は、開業初期段階とか、或いは環境の変化とかに応じて経済目的に即した態様をとらざるを得ないものであるから、その法人の事業の全体の流れ、すなわち、会社の設立目的、設立の経緯、株式を取得し、保有した目的、取引により得た利益の使途、取引成果の帰属など主観的事情をも総合的に考慮して経済的合理的に判断すべきであり、単にある事業年度の収入・所得だけをもって判断すべきではない。

2  被告の主張

ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八九年三月の事業活動の客観的結果としての収入金額又は所得金額の状況によれば、株式売却益及び配当収入が総収入の九六パーセントにも上っているから、当該年度における主たる業務は株式保有である。このことは、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社が後の事業年度において金融事業を主たる事業としていても左右されないから、措置法六六条の六第三項に該当しない。

第三争点に対する判断

一  措置法六六条の六第一項のタックスヘイブン課税の規定は、我が国経済の国際化に伴い、子会社等を軽課税国(いわゆるタックスヘイブン)に設立し、これを利用して税負担の不当な軽減を図る事例が見受けられたために、税負担の公平の見地からこれを防止することを目的として設けられたものであるが、資源の乏しい我が国経済の発展にとって、民間企業の海外における正常な経済活動はまさにその原動力をなしており、また、我が国は、先進資本輸出国の一員として今後一層の積極的な海外投資や経済協力を要請される立場にあり、ただ単に軽課税国に所在するという理由だけで正常な事業活動を営むものまでもタックスヘイブン課税の対象とするのは適当ではないとの趣旨から、正常な事業活動と認められるものを除外することとされ、同条の六第三項では、特定外国子会社が同項所定の要件(実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在国基準)のすべてを充たした場合には、右第一項の適用が除外され、その充たした事業年度において、その特定外国子会社等が留保した所得は、内国法人の所得に合算課税されることはないものとされている。他方、右第三項は、特定外国子会社等の営む主たる事業が、株式(出資を含む。)若しくは債権の保有、工業所有権その他の技術に関する権利若しくは特別の技術による生産方式及びこれに準ずるもの(当該権利に関する使用権を含む。)若しくは著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けである場合には、その特定外国子会社等は、最初から適用除外の対象とはならないこととしている。これらは、その事業の性格からして我が国においても十分行い得るもので、その地に所在することについて積極的な経済的合理性を見出すことが困難であるから、そのような事業については、そもそも同項の適用除外の対象とはしていないのである。

そして、同項の「第一項の規定は……各事業年度においてその行う主たる事業が次の各号に掲げる事業のいずれかに該当するかに応じ当該各号に掲げる場合に該当するときは、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金額については、適用しない。」との文理からも明らかなように、適用除外は属人的なものではなく、あくまで特定外国子会社等の各事業年度ごとの留保所得を内国法人の所得に合算課税しないというものであるから、右適用除外規定の適用の前提となる特定外国子会社等の主たる事業の判定は、各事業年度ごとに行われるということは当然であり、また、特定外国子会社等が複数の事業を営む場合、そのいずれの事業が主たる事業であるかの判定は、その事業年度における具体的・客観的な事業活動の内容から判定するほかはないのであるから、その事業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するべきであり、(措置法通達六六の六―八参照)、その際、課税要件事実は当該事業年度ごとにその存否が確定される性質のものである以上、決算日以後の事情など当該事業年度には判断不能な事柄などは勘案されるべきではないことはいうまでもない。

二  ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の営業実態等及び一九八九年三月期におけるその主たる事業について

1  関係証拠及び争いのない事実によれば、次の事実を認めることができる(なお、以下において通貨単位ドルは、すべて香港ドルを意味する。)。

(一) ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、一九八八年六月七日に香港において設立され、当初の社名はボナバント社であったが、同年八月一九日に現在のとおりに社名を変更し、また、同月一一日に、決算日を当初の七月三一日から三月三一日に変更した。

ホンコン ヤオハン・ファイナンス社(ボナバント社)は設立第一期の一九八八年六月七日から同年七月三一日までの事業年度において、ホンコン ヤオハン社の株式一三万三七五〇株をヤオハンジャパン社の関係会社から五三五〇万ドルで取得している(その後、右株式は同年八月二五日に五三五〇万株に分割され、その直後の同年九月二二日に香港証券取引所に上場された。)(以上の事実は争いがない。)が、同事業年度中においてその他の事業活動は行われておらず、損益計算書上の売上はゼロとなっていた(<証拠略>)。

(二) ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、設立第二期である一九八九年三月期に至り、主たる事業活動を投資持株会社として営業を開始し、同事業年中一九八八年九月九日から同年一二月一四日までの間に前記分割後のホンコン ヤオハン社の株式の半分を超える二七二五万株を売却した。ホンコン ヤオハン社の株式は、上場時の公募価格が一株一ドル二〇セントないし三〇セントであり、同年中に二ドル程度まで上がったが、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、右株式を証券市場を通すことなく、ヤオハンジャパン社の関係者に、市場価額よりも相当低廉な一株一ドルないし一ドル五〇セントで売却したものであった。

他方、同社は右代金(売却益を含む。)及び借入金等をもって、その後の一九八九年二月及び三月にもホンコン ヤオハン社の株式合計七四〇〇万株を証券会社からほぼ市場価格で取得したので、同期末には売却前の株式数五三五〇万株をはるかに上回る一億〇〇二五万株を保有するに至った(<証拠略>)。

(三) ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八九年三月期の期末資産は、投資上場株式一億六五〇六万一五〇〇ドル、現預金残高五八一万七四六八ドル及び未収配当金五〇一万二五〇〇ドルの合計一億七五八九万一四六八ドルであり、同社の総資産金額に占める保有株式の金額の割合は約九三パーセントとなり、他方、金融業にかかわる貸付金は存在しなかった(<証拠略>)(なお、同年度中には貸付の実績自体がないことに争いはない。)。

(四) ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八九年三月期の収入は、保有株式に係る受取配当金五〇一万二五〇〇ドル、保有株式を一時売却したことによる投資有価証券売却益一三〇九万八八〇五ドル、銀行預金利息五九万八六九〇ドル及びその他の収入一一万四〇〇〇ドルの合計一八八二万三九九五ドルであり、保有株式に係る収入がその殆ど(受取配当金及び投資有価証券売却益で全体の約九六パーセント)を占めているが、同社は、損益計算書上、その内受取配当金五〇一万二五〇〇ドルを投資持株会社としての売上高に計上した(<証拠略>)。

(五) ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、本件係争年度の翌事業年度である一九九〇年三月期(以下「一九九〇年三月期」という。)において、ヤオハンジャパン社グループの香港にいおける統括会社であるヤオハンインターナショナル社(一九八九年八月ころ設立)に対し、一九八九年一〇月五日から貸付を開始したが(<証拠略>)、同期の収入は、保有株式に係る受取配当金三三九万一〇六〇ドル、有価証券売却益七一四万七九二六ドル(ただし、保有にかかるホンコン ヤオハン社の株式の売却によるものではない。<証拠略>)、銀行預金利息三一万四六五一ドル及び貸付金利息一一〇二万〇四三六ドルの合計二一八七万四〇七三ドルであるが、損益計算書上の売上高に計上しているのは、貸付金利息ではなく、受取配当金の三三九万一〇六〇ドルであり、決算報告書においては、なお事業目的を「投資持株会社」であると記載していた(<証拠略>)。

(六) なお、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、一九九一年三月期決算報告においては、「同期中グループ企業に対する事業資金の斡旋をして営業した」旨を記載し、同事業年度における収入としては、売上高として子会社及び関連会社からの受取利息二一五六万四七三三ドルを計上し、他方、それまでに購入し保有していたホンコン ヤオハン社の株式合計一億〇五五四万二〇〇〇株を前記ヤオハン インターナショナル社に売却したが、この取引を含む同期の有価証券売却益は一〇万五二〇三ドルに激減している(<証拠略>)。

その翌事業年度である一九九二年三月期も同じく、グループ企業に対する事業資金斡旋を同年度中の主たる事業として、収入中、子会社及び関連会社からの受取利息二三五三万六八〇九ドルを売上高として計上し、有価証券売却損益はゼロとなった(<証拠略>)。

2  右認定の各事実によれば、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、一九九〇年三月期に至るまで主たる事業を投資持株会社と自認して決算報告書等にもその旨を明記していた上、本件係争にかかる一九八九年三月期の事業内容も、その決算内容を見れば、主たる事業が「株式の保有」であることは明らかである。

3(一)  原告は、

<1> ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の目的は、当初から香港で活動するヤオハングループ企業に対する事業資金の融資であり、ホンコン ヤオハン社の未上場株式の保有及び同株式の上場後の売却による差益を右事業資金にする目論見であったこと

<2> 1(二)のように、ホンコン ヤオハンの株式を売却した後、再びこれら株式の購入をしたのは、さらなる値上がりを見込んでのことであって、その目算が異なって同(六)の時点まで比較的長期間の保有に及んだものの、あくまで短期的利益目的の取引であったこと

<3> 一九八九年三月期の事業年度において融資実績がなかったのは、設立後間もない時期であった上、当面株式の保有及び売却によって事業資金を調達することが必要な段階であったためであること

<4> 決算報告書の当該事業年度中の主たる事業の記載については、香港においては、香港内国歳入法一四条により、香港で行われる事業により生じた香港源泉所得には香港の事業税を課するとしているため、事業目的で保有していた資産の譲渡により生じた利益は課税されるが、長期的、固定的な投資目的による株式譲渡益が非課税であることから、非課税取引にすべく「投資持株会社」と記載し、その旨の申告をしたものであること(しかし、その後、香港税務当局から、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八九年三月期の同社によるホンコン ヤオハン社の株式保有は長期投資目的の保有とは認められないから課税取引と認定する旨通知を受け、同社で顧問税理士と検討した結果、修正に応じた。)を主張し、一九八四年以降香港に進出したヤオハングループの経理と財務を担当していたという前記証人高橋の証言にも右主張に沿う部分がある。

(二)  しかし、未上場株式の保有及び同株式の上場後の売却によって融資事業のための資金を獲得しようとの目論見であったとの点については、そもそもホンコン ヤオハン・ファイナンス社がホンコン ヤオハン社の株式の上場後にその保有株式の半分を売却した先は、いずれもヤオハンジャパン社の関係者などであって、しかも、証券市場を通さず市場価額よりも相当低廉な価額で売却したものであり、その売却益も、さらなる株式の買付けに回されたため、翌期以降の融資事業の資金となる余地はなく、これらの経緯を見る限り、保有株式の売却により融資事業の資金獲得を目的としていたとの説明とは整合しないといわざるを得ない。また、香港の税制上非課税である長期的、固定的な投資目的による株式譲渡益にすべく、いわゆる節税の意図で一九八九年三月期及び一九九〇年三月期の各決算報告書に「投資持株会社」としての営業をしたとの記載をしたとする点についても、主観的目的はさておき、前記1(二)ないし(四)のとおり、同社の右各事業年度の営業の実態はまさに投資持株会社のそれであったのであり、そして、一九九〇年三月二〇日付で香港税務当局から課税取引と認定する旨の通知が出されていながら(<証拠略>)、なおも一九九〇年三月期の決算報告書に「投資持株会社」との記載をなしていることや、前記1(六)のように一九九一年三月期決算報告においては、「同期中グループ企業に対する事業資金の斡旋をして営業した」旨を記載しているところ、同事業年度中の事業内容もその実体を伴うものであったと認められることよりすれば、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社は、むしろ企業の活動実体に即して決算報告書に主たる事業内容を記載したものというべきである(なお、香港において株式の売買による利益が課税されるか否かの判断と我が国においてタックスヘイブン課税が適用されるか否かの判断は、当然のことながら必然的な関連を有するものではなく、仮に香港税務当局により営利事業取引として課税されたとしても、それが直ちにホンコン ヤオハン・ファイナンス社の事業内容についてまで判断したものとはいえず、我が国のタックスヘイブン課税の適用に当たってのホンコン ヤオハン・ファイナンス社の主たる事業の認定を左右するものでないことはいうまでもない。)。

さらに、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の設立の目的が、長期的には、香港において活動していたホンコン ヤオハンデパート社等のヤオハングループ企業に対する事業資金の融資であったことは、本件係争にかかる一九八九年三月期以後の事情である前記1(六)などから窺われないではない。しかしながら、右目的は、右1(六)のように客観的外形的な事業活動として現れるまでは、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の内部的・主観的な意図にとどまっていたものであって、その時点では実現するか否かも確実とはいえないものであるから、当該事業年度の客観的事業活動に現れるに至らないそのような意図の存否ないしその将来における実現(事業展開)を予想して主たる事業を判断することは、当該事業年度ごとにその時点において存否が確定されるべき課税要件事実の存否の判断とは相容れないものであり、採用の限りではない。

(三)  以上によれば、原告主張の前記(一)の諸点は前記2の認定を左右するものとはいえない。

三  よって、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社の一九八九年三月期の事業年度における主たる事業は株式の保有であると認められ、措置法六六条の六第一項のタックスヘイブン課税の適用除外を定める同条三項には該当しない。したがって、同社及び主たる事業が株式の保有であったことにつき争いのないホンコン ヤオハン社の右事業年度の各留保金額については、いずれも内国法人たる原告の特定外国子会社として、その課税対象留保金額につき原告の係争年分の所得に益金として合算課税すべきである。

四  税額等の計算(計算過程及び計算根拠自体は争いがない)

1  所得金額 三億七四四五万九二〇八円

これは、原告の提出した確定申告書記載の所得金額四九四七万〇六〇四円に次の(1)の金額を加算し、(2)の金額を減算した金額である。

(1) 加算すべき金額(特定外国子会社等の留保金額) 三億二七四四万六四二六円

措置法六六条の六第一項の規定により、原告の所得金額に加算される特定外国子会社等の留保金額(課税対象留保金額)は、ホンコン ヤオハン・ファイナンス社につき一億七〇九九万九二六七円、ホンコン ヤオハン社につき一億五六四四万七一五九円である。

(2) 減算すべき金額(寄附金の損金算入額) 二四五万七八二二円

2  本件更正処分に係る所得金額三億七四三八万一〇〇〇円(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨て。)は、前記1記載の原告の本件係争事業年度の所得金額三億七四四五万九二〇八円から一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた三億七四四五万九〇〇〇円の範囲内であるから、本件更正処分は適法であり、これに基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

四  結論

以上のとおり、本件各処分はいずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する。

訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条各適用。

(裁判官 吉原耕平 西島幸夫 前田巌)

<別表 略>

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